9-12歳 おすすめ 友情

風の郵便局のきらめく約束

転校して友だち作りに不安を感じている十一歳のハリンが、使われなくなった灯台郵便局で不思議な手紙を見つけ、思いがけない友だちと本当の友情を知っていく物語です。

風の郵便局のきらめく約束

ハリンが海辺の村ソルヨウルへ引っ越してきて、ちょうど十日目の朝だった。彼女は新しい制服のスカートのすそを、指で丸めたりほどいたりしていた。 窓の外では、カモメがパンくずのような白い雲のあいだを飛び、遠くの古い灯台が霧の中でかすかにまたたいていた。 母さんはお弁当袋を差し出しながら、「今日はだれかに、先にあいさつしてみたら?」と言った。ハリンはうなずいたけれど、のどの奥は貝殻みたいに固くなっていた。

新しい学校の運動場は、砂に細かな貝殻が混じってきらきらしていた。子どもたちは、ずっと前からおたがいのあだ名も秘密も知っている人たちのように笑っていた。 ハリンはランドセルのひもをぎゅっと握り、教室のいちばん後ろの席に座った。休み時間のたびに女の子たちは、ゴムとびや合唱部のオーディション、来週の海祭りの話をした。 ハリンは鉛筆の先で、ノートのすみに小さな郵便ポストを描いた。

昼休み、前の席のソユルという子がくるりと振り向いた。ソユルは短く結んだ髪を揺らし、話すたびにまゆが元気よく上がった。「絵、上手だね。そのポスト、灯台のそばにあるやつ? 」ハリンは答えようとしたが、別の子がソユルを呼んだ。ソユルはごめんねと言うように手を振って走っていった。 ハリンの心では、小さな扉が少し開き、すぐに風で閉まってしまったようだった。

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その日の放課後、ハリンはまっすぐ家に帰らず、灯台へ続く坂道をのぼった。道ばたでは浜菊が紫色の顔をのぞかせ、ぬれた木のにおいと潮風のにおいが混ざっていた。 灯台の下には、緑色の屋根をした古い建物があった。扉の上の色あせた看板には「風の郵便局」と書かれていた。 扉に鍵はかかっておらず、押すと紙のほこりと乾いたラベンダーの香りが、静かに流れ出した。

中にはだれもいなかった。古い窓口、さびたはかり、色のあせた切手帳、そして壁の真ん中には大きな仕分け棚があった。 棚のひとつひとつの箱には、名前のかわりに星、貝、波、三日月の絵が貼られていた。ハリンが三日月の箱に触れると、薄い封筒がぽとりと落ちた。 差出人も宛先もなく、ただこう書かれていた。「友だちを待っている子へ。」

ハリンは心臓が太鼓のように鳴るのを感じながら、封筒を開けた。中には銀色のインクで書かれた短い手紙が入っていた。 「本当の友だちは、あなたがいちばん静かな日にも、心の音を聞こうとする。でも、あなたも扉をほんの少し開けなければならない。 」手紙の下には小さな地図のかけらが貼られ、海祭りが開かれる防波堤と、学校の裏のツバキの木が印されていた。 だれかのいたずらかもしれないと思ったが、指先には不思議なぬくもりが残っていた。

翌日、ハリンはツバキの木の下でソユルに会った。ソユルはひざに草のしみをつけて、地面を掘っていた。「弟が埋めたビー玉を探してるの。 祭りの飾りに使うつもりだったのに、なくなっちゃって。」ハリンは迷ったあと、かばんから地図のかけらを出した。「ここに印があるよ。 」ソユルは目を丸くし、シャベルのかわりに小枝を渡した。二人は黙って土を掘りはじめ、やがて青いガラスのビー玉が三つ、太陽の中で水のしずくのように光った。

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それからハリンとソユルは、毎日の放課後に風の郵便局へ立ち寄った。ある日は貝の箱から「なくした笑顔を探している人へ」という手紙が出て、二人はいつも一人で座っている六年生のお姉 さんに、祭りのポスターの色ぬりを頼んだ。別の日には星の箱から「古いごめんなさいが必要な人へ」という紙が出て、ソユルは去年けんかした友だちのミンジェに先に声をかけた。 不思議なことに手紙はいつも、だれかの心の片すみを少し照らした。二人はその光をたどりながら、少しずつ近づいていった。

けれど近づくほど、ハリンはこわくなった。ソユルはだれにでもすぐ笑い、運動場の真ん中でも海の鐘のように声が響いた。 ハリンは、ソユルがそのうち、もっと楽しくて前から知っている友だちのところへ戻ってしまう気がした。 だから祭りの準備会でソユルが「メインの絵はハリンが描くといいと思う」と言ったとき、うれしいのに顔が熱くなった。みんなが自分を見ると、ハリンは「いや。 わたし、そういうの無理」と、とげのある声で言ってしまった。

教室が静まり返った。ソユルの目が一瞬揺れた。休み時間になると、ソユルは小さな声で「プレッシャーをかけるつもりじゃなかったの」と言った。 ハリンはごめんと言いたかったのに、先に口から出たのは「もう、わたしのこと気にしないで」という言葉だった。その言葉は小さな石のように、二人のあいだに落ちた。 ソユルは何も言わずに背を向け、その日ハリンは初めて一人で風の郵便局へ行った。

郵便局の中は、前よりずっと暗く見えた。古い窓のすき間から風が入り、仕分け棚の紙の絵をかさかさ鳴らした。ハリンは三日月の箱を開けたが、何もなかった。 星の箱も、貝の箱も空っぽだった。最後に波の絵の箱を押すと、厚い封筒が落ちてきた。そこにはハリンの名前がはっきり書かれていた。見覚えのある字だった。ソユルの字だった。

手紙には、少し曲がっているけれど本当の気持ちがいっぱい詰まっていた。「ハリン、転校してきた日に、後ろの席でポストを描いているのを見たよ。 わたし、友だちが多いふりをしているけど、引っ越した親友のウンソのことを思うと、話しすぎちゃうの。静かになると泣きそうだから。 あなたの絵を見て、わたしの気持ちをわかってくれる気がした。だから話しかけたかったんだ。」ハリンは読みながら胸がつまった。 不思議な手紙は全部魔法だと思っていたのに、そのいくつかはソユルがみんなのためにこっそり書いたものだった。

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そのとき、窓の外でどんという音がした。ハリンが飛び出すと、祭りの飾りに使う紙灯籠の枠が強い風で倒れ、防波堤のほうへ転がっていた。 さらに向こうでは、ソユルがそれをつかまえようとして、雨でぬれた石の上に座りこんでいた。ハリンは考えるより先に走った。「ソユル、手を出して! 」自分でも驚くほど大きな声が、風を切った。ソユルが手を伸ばし、ハリンは全身の力で友だちを引っぱり上げた。

二人はぬれた草の上に並んで座り、息をはずませた。ハリンはかばんからしわくちゃの手紙を取り出した。「わたし、ソユルが離れていくのがこわくて、先に突き放したの。ごめんね。 それから、手紙をありがとう。」ソユルは鼻先に雨粒をつけたまま笑った。「わたしも、ハリンが何も言わないと、迷惑なのかなって思ってた。これからは勝手に決めつけないで、聞こう。 」ハリンはうなずいた。心の扉がまた風で閉まらないように、二人で取っ手を持っているような気がした。

海祭りの日、防波堤の入口にはハリンが描いた大きな絵が飾られた。絵の中の風の郵便局は本物より少し明るく、窓ごとに子どもたちの手紙が星明かりのように浮かんでいた。 ソユルはハリンの横で色鉛筆の箱を持ち、来た子どもたちに白い葉書を配った。子どもたちは謝りたかったこと、ありがとうと言いたかったこと、新しく友だちになりたい子へ渡したい言葉を 書いて、緑のポストに入れた。

夕日が沈むころ、灯台の光がゆっくり回りはじめた。ハリンはソユルといっしょに郵便局の扉を閉める前、三日月の箱に新しい手紙を入れた。「友だちを待っている子へ。 あなたは大きな声を出さなくても大丈夫。ただ、心の窓を少し開けておいて。だれかが風のように近づいてきたら、あなたも手を振れるように。」その下にソユルが書き足した。 「そして、ときどきは、あなたが先に風になってもいいんだよ。」

それから風の郵便局は、村の子どもたちの秘密の約束の場所になった。ハリンは今でも静かな日が多かったが、もう静けさをただのさみしさだとは思わなくなった。 ソユルは相変わらず元気に笑ったが、ときどき何も言わずにハリンの隣へ座り、波の音を聞いた。二人は知った。友情は、いつもきらきらした言葉だけでできているのではない。 待つこと、勇気を出すこと、そしてもう一度手を差し出す小さな選択で作られていくのだと。

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The End

今日のお話はここまで

心に残った場面を、親子でゆっくり話してみてください。

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